以前、会社の同僚に10万円を貸した。
貸したときから自分の金じゃないと割り切っていたが、2年くらい経ったある夜、オレのアパートに全額封筒に入れて返しにきてくれた。
「遅れてゴメン、利息を付けたかったんだけど、とりあえず・・・」
というので、
「じゃ、10万と500円で完済でいいや」
って冗談のつもりで答えた。
彼は財布から500円分の硬貨を取り出し
「ありがとう、ほんとに助かったよ・・・」
といって笑顔でオレに手渡した。
少し話をしてその夜は別れたが、部屋に戻ってからすごく後悔した。
彼の財布の中に札が1枚も無かったのが見えたからだ。
彼の困窮が両親と子供2人を抱えるの父子家庭であるからだということも知っていたが、後悔したのは、500円というお金をまるで無価値のように彼に話してしまったことだ。
昼食をよく抜いてた彼。
駅まで何キロも歩いて帰る姿もよく見た。
薬局で1袋分の風邪薬を買ってるのも見た。
あのとき余分に500円さえあれば、牛丼も食えたしバスに乗って帰れもしたろう。
子供の誕生日に板チョコじゃなくて、ショートケーキくらい買ってあげられたのかも知れない。
それでも10万円という大金を貯めて
「ありがとう」
といって返しにきてくれた。
彼とはしばらく付き合いがあったが、オレが転職して、結局、詫びる(?)方法もわからないまま音信不通になった。
あの夜以来、あまり人前でお金の話をすることはなくなったような気がする。
誠実で誇り高い彼の人生に、幸多からんことを事を・・・