親父、覚えているか。
俺が小さい頃、この店の前で駄々をこねてお子様ランチを食べたいと言った事を。
親父は
「わがままを言うな」
と一喝し、俺の頭を殴ったな。
俺は泣きじゃくっていたが、それを背に親父は歩いていったな。
母さんに支えられながら歩いた俺は親父のその背中を見て、畏怖したもんさ。
家に帰っても親父とは話ができず、家の中には気まずい空気が流れていたな。
その日から、何日経っただろうか。
母さんが
「こっそりあの店に行きましょう」
と言ってくれた。
俺は歓喜に震えながらも、後で親父にバレて怒られる事を危惧した。
だが、幼い俺はお子様ランチの誘惑には勝てず、母さんと二人で店に向かった。
その店に向かう道中からその店でお子様ランチが出るまで、俺はワクワクしっ放しだったさ。
そして、念願のお子様ランチが出てきた時には、もう俺の喜びは最高潮に達した。
そこからは俺もあまり覚えてないな。
本当にもうただお子様ランチに心を奪われていたんだな。
気付いたら、既に皿の上には何も乗っていなかったさ。そこで再び、俺の中には親父への畏怖が湧き上がってきた。
そこで俺は恐る恐る母さんに対して口を開いた。
「この事、父さんには内緒だよね……?」
と。
しかし母さんは言う。
「う~ん、それは無理かもね」
俺は愕然とした。
「どうして?どうして?どうして?」
何も信じられなくなろうとした刹那、母さんはこう続けた。
「父さんが『この金で連れて行ってやれ』って言った事だから」
親父、覚えているか。
俺は今でもあの時の親父の背中を覚えてるよ。
けど本当は
本当は親父と一緒に食いたかったんだぜ?
今更言ってもしようがないし、親父は不器用だったから仕方ないかもしれないけど。
だから、約束してくれ。
俺がそっちに行ったら、一緒に・・・