お父さん
『男は人前で泣くものではない』と厳しく言ってましたよね。
だから、お父さんが亡くなる時も通夜でも葬式でも
俺は決して泣かなかったのです。
あの頃、まだ幼稚園児だった弟はもう大学生です。
成長する毎に、顔、声、体格、なぜか仕草までお父さんに生き写しと誰からも言われるようになりました。
弟が俺の結婚式で着ていたのはお父さんのスーツでした。
「これ、お父さんの服」
と弟に言われるまで気付きませんでしたが。
弟はただピッタリだからというだけの理由で着たようです。しかし、それを知ったが最後、弟にばかり気を取られます。
一瞬、お父さんかと錯覚する程似て見えます。
お父さんに今日のこの場所にいてほしかった。
そして『育ててくれてありがとう』と言いたかった。
初めてネクタイを締めた弟の姿を見せたかった。
様々な思いが去来する中、俺に『おめでとう』と言った弟の声があまりにもお父さんに似過ぎていて涙を堪えきれなくなったのです。
言いつけを守れなくてすみません。
けれど、こればかりはお父さんも許してくれるのではないかと甘く考えていることも正直に書いておきます。