今日、正式に新しい家族も増えたし、墓にも家にもどこに行ってもお前はいないから、ここで書くよ。
(墓にもちゃんと好物は置いておいたぞ、気づけよ)
あの日、あの瞬間の30分前を今でも思い出すよ。
デートで映画見てご飯を食べて、疲れたから帰ろって俺の家に帰った。
その後、お前が映画館に忘れ物したって言い出したよな。
ばかだよなー、飯くったり時間たったのに家帰ってから気づくあたりがほんとに、お前らしくてドジだった。
一緒に取りに行こうって言って、車のキーを出した俺に
「今日は久しぶりのデートだし、夕食は私が腕振るうよ。最近おいしいハンバーグを覚えたんだ」
って、すっごい明るい笑顔で言ったのを忘れない。
あの時、笑い返しながら
「わかった、楽しみにしてる。帰りに買ってきてほしい物ある?」
って、何も考えずに答えた自分の馬鹿さも一生忘れない。
最後にしたキスも絶対に一生忘れない。
俺はお前の忘れ物のおかげで今も生きてる。
お前は俺の家が被災地にあったせいで、津波の中だったせいでいなくなっちまった。
なんであの家に住んだんだろう。
なんで
「一緒に行こう」って、
「デートだから一緒に」って、
なんで言わなかったんだろう。
1週間、1ヶ月、半年、1年。
ずっと帰ってきてくれないよな。もう葬式も終わっちまったぞ。当たり前だよな、帰るのはお前じゃなくて俺だもんな。
俺、今でもお前のハンバーグを楽しみにずっと出掛けているだけだよな?
今日、家族が増えたよ。
お前も覚えてると思うけど、俺の従兄弟の子を迎えることになったよ。祖母も祖父も亡くなっちまって、あの子も一人になったんだ。
俺、一人身だけど、おまえも可愛がってた子だし、がんばるよ。きっと周りのおばちゃんとかいろんな人に助けてもらうだろうけど、俺なりに一生懸命育てていくよ。
子供なら家族増えてもいいよな?
きっと怒らないでくれるよな。これは不倫じゃないよな。
頑張るから、いつか「おかえり」って言って、ハンバーグ食べさせてくれ。
俺は、もう一度こっからがんばるわ。