【カズとサッカー少年の話】
リーグが始まった年だからもう何年前になるんだろう。
名古屋の栄の焼き肉屋へ家族で行ったときのこと。
座敷席にカズさんと北沢選手と、数人の女の子がいた。多分遠征中だったのだろう。
当時高校生の俺の小学校三年の弟はサッカーをやっていた。
せっかくだからと尻込みする弟をカズさんの前へ連れて行って、
「お楽しみのところすいませんが、弟がサッカーやっているんで、何か言葉をいただけると励みになるんですが」
と厚かましく言った。
カズさんは
「お、サッカー少年か」
と楽しそうに言いながら、座敷席の奥からわざわざ立ってこちらへ来てしゃがみ込み、弟と目線を同じ高さにした。
「サッカー少年は勉強がよくできるか?」
といきなりキングは弟に聞いた。
弟の成績はそれなりによい。
弟は「うん」と答えた。
するとキングは
「頭のいいやつは、トップ下MFがあってる」
と、カリオカ、ラモスの名前を挙げた。
さらに何かを言おうとするキングに連れの女の子が「ねえまだー」と露骨にいやそうな顔をした。
カズは、振り返って一言言った。
表情は向こう向きだったから、わからなかったが、多分厳しい顔をしていたのだろう。
「うるさい。俺たちは今サッカーの話をしているんだ」