母は、僕を女手一人で育てた。
僕の幼かった頃に亡くなった父は、マンションの10階を母に残した。
そのマンションからは夏に花火をみることができる。
父と母が過ごした街の花火。
毎年花火の時には、窓際にテーブルを移動して、母と一緒に父を偲んだ。
花火はいつもきれいで、母はうれしそうだった。
父は母に素敵なものを残したなっと思った。
でも、それは長くは続かなかった。
僕が高校の時、うちのマンションの前にもっと高層マンションが建設されたのだ。
僕は『景観が悪くなるなぁ』って思ってた。
その年の花火の日、いつものように、テーブルを移動して準備してた。
「花火みれるかな?」って心配だった。
花火みれなかった。
見事にマンションで見えなくなってる。
音だけの花火。
あんなに悲しそうな母の横顔を見たことがない。
僕は母を連れて川辺に歩いていった。
母と見上げた初めての花火。
父さん、心配するな。
これからは僕が母さんを笑顔にするから。