そのときの部長はすっごく冷たくて、いつもインテリ独特のオーラを張り巡らせてる人だった。
飲みに誘っても来ることはないし、忘年会なんかでも一人で淡々と飲むようなタイプで、よく怒られていたこともあって、俺はすごく苦手だった。
ある日のこと、部長の解雇を伝える社内メールが全員に届いた。
『あのむかつく部長がいなくなる!!』
心の中でガッツポーズしたのは俺だけじゃなかったはずだ。
それから一週間後、部長の最後の出勤日。
退社のセレモニーが終わると、みんなそそくさと帰って行ったが部長と俺だけは居残って仕事を片付けていた。
送別会の開催も自ら断った部長を苦々しく思っていると珍しく専務から呼び出された。
しぶしぶ専務室へ行くと、課長と専務が待ち構えていた。
俺はそこで初めて課長から「部長解雇の真相」を聞いた。
原因は俺だった。
俺のミスの責任を全て部長が被っていてくれたらしい。
話しを聞いてたまらなくなった俺は急いで部署に戻ったが、部長の姿はすでになかった。
ふと自分の机の上を見ると、封の開いた買い置きタバコ。すでに一本なくなっている。
横に添えられたメモにはこう書いてあった。
『これぐらいはいただいてもいいはずだ』
俺にとっては無くなったその一本が、思い出の一本です。